翌日の朝、このままもう一日セビージャに滞在して、別のタブラオへ行こうか、違う町へ移動しようか考える。結局、昨日のフラメンコよりすごいものを観られる可能性は少ない、という判断から移動を決めた。
「ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ」
ヘレスとは‘シェリー酒’のこと。この町の近隣で取れたぶどうを使っていないとシェリー酒と名乗ってはいけないらしい。よし、せっかくだからこの町に立ち寄ってシェリー酒を飲もぉっと。というただそれだけの理由で、この町へ行くことにした。グラナダ、コルドバ、セビーリャと、内陸の町続きだったけど、このヘレスから海まではかなり近い。どんなところなんだろう。楽しみだな。当初、シェリー酒を飲んですぐこの町を立ち去る予定だった。実際にこの町を見る前までは…。
町に入ると所々に、ヘレス酒醸造工場みたいな看板を目にするようになる。おぉ、なんかいい感じだぞ。町の中心に着き、車を止め少し歩いてみる。海も近くなってきたしなんか南国チックな印象。何よりの違いが、東洋系の人種が極めて少ない!黒人もいない。そう、ほとんどラテン人だけなのです。そう言えば、さっきから通りすがりの、母親に手を引かれた子供がチラチラ僕の方を見てるな。東洋人はめずらしいんだろうな。子供は正直だからな。などと考える。ランチとシェリー酒を飲む為、レストランへ入る。笑顔のウエイトレス、たどたどしい英語で話しかけてくる。人懐っこそうで何かかわいいな。えーと、このランチセットとシェリー酒ください。オッケーよ!うわーすごい笑顔だ。よかったこの店に入って。おそるおそるシェリー酒を口にしてみる。見た目赤ワインだけど、味は酸味が強いような感じ。ちょっとくせがある。でも慣れるとこのくせがたまらなくなるのかもしれない。レストランを出て、もう少し町を散策。綺麗…。人もいい。なんかしっくりくるんだよね。ということで急遽今夜はこの町に泊まることにした。
ホテルを見つける。フロントの兄ちゃんもフレンドリーでいい人だ。もうちょっと安くしてくれない?って言ったら、うん…、でもボスに聞いてみないと、僕では決められないし。わかった、わっかた。この値段でいいよ!鍵をもらい部屋に入ろうとすると、後ろから彼が来て、同じ値段でもっといい部屋にしてあげるよ、だって。やっぱいい奴だ。
さっき、観光案内所でもらったリーフレットにフラメンコの案内があったな。よし、今夜はここに行ってみよう。会場は例によって旧市街。しかし、ここがものすごい複雑なつくりをしている。まず、地図を見ても入口がわからない。壁で旧市街全体が覆われている為、入口がどこなのかさえよくわからない。入ったら入ったで、とたんに方向感覚を失い、出ることができない。結局何時間も旧市街のなかをさ迷い続けた。何とか今夜のフラメンコの会場を確認する。途中何人もの地元民のナビゲートを受けた。まだ、14歳くらいだと思われるたばこを吸いながら道をおしえてくれた、不良少年たち、ありがとう。フラメンコはレベル的にはセビーリャのものに及ばなかったけど、でも今夜もフラメンコを観ることができてよかった。彼らは毎日ここでフラメンコを踊っている。ここの人達にとって生活の一部なんだな。歩いてホテルへ帰る。夜中2時をまわっていたが、いまだ遊んでいるスペイン人の声を聞きながら眠りについた。
翌朝、この町を出て次の町へ行くことに。荷物をまとめ、車へ。……。あれっ!!? 車がない…。ちょっと待てよ、確かにここに止めたはずだよな、しばらく考える。結局、次の結論に至った。1:車を盗まれた。2:車をレッカーされた。2の可能性が高い。落ち着け、落ち着け、と言い聞かせながら、さっきのホテルへ戻る。きのうの兄ちゃんのボスと思われる人がいる。あのー、車をレッカーされたみないなんですけど。何?本当か、よし俺が今から警察に電話してやるから、ちょっと待っててくれ。何やら早口のスペイン語で警察と話をしている。電話が終わり、まっすぐ僕の方を見るオヤジさん。ドキ、ドキ…。君の車はポジションが悪かった為、レッカーされた。うわー!やっぱり。でも、盗難でなくてよかった。今からタクシーを呼んでやるから、警察に行きなさい。はい。それしかないですもんね。ありがとうオヤジ。タクシーで観光客、いや、地元の人でもわかりにくそうな、レッカーされた車が保管されている場所へ。約、70ユーロの反則金を払う。そこの警察のおばちゃんも何かいい人だった。あらー、やっちゃったのね、みたいな感じでニコニコしている。これは運が悪かったにせよ、まあ僕の判断ミス。でもまあ、いいか。すぐ車戻ってきたし。スペインで車レッカー、なかなか経験できることじゃない、とすごいポジティブスィンキング。
気を取り直して次の町へ。